当会の歩み

牛臨床寄生虫研究会のあゆみ

徳山 桂理
事務局担当理事

 当研究会は、その前身である「牛寄生虫病対策研究会」として1998年に設立され、その後、2002年に名称を「牛臨床寄生虫研究会」と改称して現在に至っています。
 設立当初、寄生虫感染症への意識は、その他の感染症や一般疾患に比べてまだ十分とは言えず、臨床現場と基礎研究の連携も希薄になりがちでした。しかし、寄生虫感染症は、重篤な問題を引き起こす寄生虫種のみならず、亜臨床的な作用による牛群ベースでの生産性低下、免疫系への干渉や負荷に起因する他の疾患との相互作用、原虫や節足動物などによる公衆衛生上の問題など、研究領域と臨床現場が一体となって研究活動を進める必要があることは明らかでした。また、当時、研究が進んでいたプロダクションメディシン(生産獣医療)の観点からも寄生虫感染対策は欠かせない領域だったと言えます。このような状況の中、当時、生産獣医療の普及にも取り組んでおられた本好茂一先生(日本獣医畜産大学名誉教授)の旗振りのもと、寄生虫感染症に全方向連携で対応するという趣旨に賛同する第一線の大学、公的機関の研究者、臨床経験豊富な現場の臨床獣医師、製薬メーカーの研究者などにより設立されました。
 初代会長には、当会設立の旗振り役となられた本好先生が就任されましたが、当会の草分けの理事として、安田宣紘先生(鹿児島大学教授)、福本真一郎先生(酪農学園大学教授、現酪農学園大学名誉教授)、堀井洋一郎先生(宮崎大学教授、現宮崎大学名誉教授)、藤崎幸蔵先生(帯広畜産大学原虫病研究センター教授)、仙北富志男先生(青森県畜産協会)、南哲郎先生(中央畜産会)、小野和弘先生(千葉NOSAI)、中野恭治先生(兵庫NOSAI)、 地域代表理事として、臼井章先生(根室NOSAI)、鶴林正貴先生(道南NOSAI)、高橋良平先生(十勝家保所長)、高橋俊彦先生(釧路NOSAI、現酪農学園大学副学長)、岡田啓司先生(岩手大学助教授、現岩手大学名誉教授)、高橋史昭先生(NOSAI宮城、現北里大学准教授)、武藤守先生(三ケ日農協、現武藤動物病院)、猪熊壽先生(山口大学助教授、現東京大学教授)、永山作二先生(鹿児島NOSAI)、永野直之先生(熊本開業)、児島秀典先生(長崎NOSAI)、君付忠和先生(君付動物病院)、新垣修先生(NOSAI沖縄)など、全国の研究機関や臨床現場より寄生虫症感染に携わる錚々たる面々が参集し、活動が開始されました。
初代会長の本好先生は、知らない獣医はもぐりと言われるほど獣医界では著名な先生でしたが、プロダクションメディシン導入にも尽力されており、その啓蒙の観点からも当会の活動を支えていただきました。2011年に会長を退任されるまでの13年間、研究、臨床、世代など分け隔てなく当会の指導役、けん引役を務められました。当会の名称に「牛」の文字が最初にあるのも、学会リストなどであいうえお順だと上位に来て目立つからという、本好先生のアイディアです。
 その後、第2代会長として元宮崎大学副学長(現宮崎大学名誉教授)、堀井洋一郎先生が当会の束ね役として第2代会長に就任されました。堀井先生は寄生虫学のエキスパートとして活躍されていましたが、人獣共通の問題も含め、例えば、長崎大学医学部在任中は、のちに東京医科歯科大学名誉教授となられる藤田紘一郎先生とともにフィラリア症の感染免疫などの研究を精力的に行われていた先生です。堀井先生には寄生虫学の泰斗として当会を2020年までの9年間引っ張っていただきました。現在は第3代会長として、日本家畜臨床学会の理事や監事を歴任された岡田啓司先生(岩手大学名誉教授)がその職につかれて研究会の筆頭として、活動の推進、後進の指導にあたっておられます。
 当会は、寄生虫学という学問の枠にとらわれることなく、臨床面も含め様々な多くのスペシャリストの先生方に支えられながら25年という時を刻んできました。1998年に始まったシンポジウムや研究集会は、31回を数え、当会の知見をさらに広めるべく2010年に発刊した研究会誌もコロナ下での中断といった事態は合ったものの第13巻を数えます。また、若手研究者、臨床獣医への研究助成実施やホームページの活用などで寄生虫問題の啓蒙にもアプローチしてきました。
 今後も当会の活動が、寄生虫の問題を中心に据えながら基礎研究や生産獣医療の領域でさらに貢献できればと願うものです。
 最後に、これまでのシンポジウム・研究集会のすべてのあゆみについて一覧を以下に掲載します。